国立国語研究所編纂「日本言語地図」第183図とうがらし(蕃椒)
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「さて,トオガラシ類,ナンバン類,コショオ類の3類の関係をみると,言語地理学的にトオガラシ類が最も新しいものであることはあきらかである。この語は関東に侵入してその領域をひろげるとともに九州北岸・東岸に新しい領地を獲得しつつあるようである。ところがナンバン類についてはかって中央で用いられたものであって,それが東海・北陸以東および出雲に残存したものであるか,出雲のものは,何らかの事情で東日本方面から伝播したものなのか,十分にあきらかでない。言語地理学的には前説をとって,近畿から中国にかけてあった古いナンバンは,玉蜀黍のナンバンによって駆逐されたとしたいが,出雲以外にナンバン類の残存のないことが,弱点となる。」
「ここでは言語地図の解釈であるから古く中央でコオライゴショオないしはナンバンゴショオの形が使われており,それが四周に伝播する過程でコショオまたはナンバンが生じ(あるいは中央を発するときすでにコショオまたはナンバンになっていたかもしれない)近畿地方で後にトオガラシが発生し,現状が形成されたと考えておくが,そのほか,コショオ類のあるものは海上交通によって飛火したものとする考えや蕃椒が九州にはいってはコオライゴショオと命名され(それが沖縄に伝わり,本土ではコショオになる),近畿にはいってはナンバンゴショオと命名され(それが東日本と山陰にナンバンやコショオとなって残る),後トオガラシに改められたとする考え方なども,捨てないでおく。九州にナンバンがないのは南瓜をナンバンということと関係があるかもしれない。『物類称呼』に「奥の仙台にてこせうといふ」とあることなどは,飛火的伝播が過去にあったことを示している。単純な分布ながら解釈がむずかしい地図の例とすることができよう。」
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この蕃椒の地図は,見出し語はかなりあるようにみえるが,榿で示したトオガラシの類,緑で示したナンバンの類,紺で
示したコショオの類およびほとんど勢力のないその他の類にわけることができ,地理的分布も比較的単純であって,
各類のあいだの交錯もすくない。

『日本言語地図』地図画像 183とうがらし| 国立国語研究所より引用(PDFで拡大できます)
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国立国語研究所編纂「日本言語地図 第184図
「とうもろこしのナンバン類」(182図)と「とうがらしのナンバン類」(183図)との総合図
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「この地図は,182図・183図の内容のうち,陸図で緑の符号を与えたナンバン類の内容をとりあげて,総合的に示したものである。
すでに、それの図で示した内容を転載しただけのものであるから,特に新しい内容を持つものではない。 ただし,石川。福井・長野・岐阜・静岡・愛知,島根の諸県において,玉蜀黍におけるナンバンi類と,蕃椒におけるナンバン類とがどのように接し,また交錯しているかを,地点ごとに点検することができる。 特に,静岡県浜名郡湖西町鷲津(6650.70)の農民(1891年生)が,「とうもろこし」も「とうがらし」も,ともにNANBANといっているなどのふしぎな現象を発見することができる。」
玉蜀黍におけるナンバンi類と,蕃椒におけるナンバン類とが交錯している石川。福井・長野・岐阜・静岡・愛知の拡大図を表示。これが柳田国男著「方言覚書
」のなかの「玉蜀黍と蕃椒」の説明図にもなっています。
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『日本言語地図』地図画像 184とうもろこしととうがらし| 国立国語研究所より引用(PDFで拡大できます)
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