葛飾北斎「冨嶽三十六景」



冨嶽三十六景「本所立川」は北斎の騙し絵 其の二






3 「富嶽三十六景 本所立川(ほんじょたてかわ)」で北斎は何を描いたか



(1)2本一組の木材とバラの木材と板材の束が、何故画面中央に置かれているか

2本一組の木材とバラの木材が、何故画面中央に置かれているかがわからない。これらの木材の注文が来たので、その客が来たとき、運びやすいようにここに置いてある。しかし、すぐ横にこの木材用の置き場があるので、そこに縦に置いておくのが普通で、この場所においておくとかえって作業の邪魔になりそうです。

まず、図13に示すように二本一組の木材がどのように置かれているかもはっきりしない。2本一組の木材に接触しているのは中央の板材の束です。しかし全長の35%ぐらいのところで板材と接触しているので、ここだけの接触では安定しないが、板材の横の角材とは接触していないようです。竹束の左側にある棒が、2本一組の木材の支持棒になっているようですが、少し高さが足りない用でもある。木材の影が描かれていればその辺りの接触状態がわかるが、浮世絵は影が無いので、このような立体画像の詳細は不明になる。

この支持棒の途中から紐が横に伸びている。二本一組の木材の右に同じ太さの棒があるので、紐はこの棒まで伸びて、竹を束ねているようです。竹束を括るための棒を支持棒として、2本一組の木材が板材の上に置かれていると考えます。2本一組の木材を画面中央に置くために、北斎は相当苦心しています。

バラの木材二本もかなり苦心して、角材の間に割り込ませています。板材の束も、角材置場に無理においてあるようです。


図13 「本所立川」」の画面中央に置かれた4本の木材と紐の先の想像図


図13 「本所立川」」の画面中央に置かれた4本の木材と紐の先の想像図



置かれる必要も無い二本一組の木材とバラの木材と板材の束を、この画面中央に置いたのは、「本所立川」の構図の要請と考えます。

北斎は、垂直、直角に置かれた木材および家並みの整然とした画面の配置を破るために二本一組の木材とバラの木材と板材の束を描いたのです。図14に二本一組の木材とバラの木材と板材の束を除いた「本所立川」を示します。二本一組の木材とバラの木材と板材の束がない画面は整然としてますが、躍動感が無く、働く職人の声も消えて全体の活気が失われたようです。二本一組の木材とバラの木材と板材の束が、画面全体に活気と躍動感を与えているようです。



二本一組の木材とバラの木材がないと


静かな雰囲気で

活気がないね










なるほど

料理でもひと手間かけると
味があがるのよ


名人芸だね






図14a 二本一組の木材とバラの木材を除いた「本所立川

図14a 二本一組の木材とバラの木材を除いた「本所立川



図14 二本一組の木材とバラの木材を加えた「本所立川」

図14 二本一組の木材とバラの木材を加えた「本所立川」
       



図15のように、二本一組の木材とバラの木材中心点から各木材の伸びる方向に直線を描くとその線上に「本所立川」の主な構成要素である「富士山」、「働く職人」、「投げられた木片」、「西村置場」」が描かれています。北斎は、この放射線状の構図を意識して、各要素を描いています。読者はこの放射線状に視線を移動することにより、画面から木片の受け取りを行う「いくぜ-」、「あいよ」の掛け声、鋸を引く音がきこえてきて、画面全体の躍動を感じます。

「江都駿河町三井見世略圖」では、職人の動きと2種類の凧が画面に躍動感をだす役割を担っています。




職人が動き出して

かけ声が聞こえてくるようだ



いくぞ〜

はいよ〜



図15 バラの木材と板材の束の中心からの線上に職人と富士山

図15 バラの木材と板材の束の中心からの線上に職人と富士山
       





図16のように、本所立川の働く職人と富士山は切断される木材の形成する直線で繋ながれており、職人は「おはようございます、今日も元気で働いてます」と挨拶し、富士山はその挨拶を受けて、温かい心で働く職人を見守っている構成になっています。


図16 「本所立川」の富士山と働く職人との関係


図16 「本所立川」の富士山と働く職人との関係



図17のように、「本所立川」を更に深読みして、「本所立川の住民の願いを富士山に飛ばしている図」と見ます。

富士参拝にいかれない本所立川の「富士講」信者の願いごとは、木片に書いて左の高い木片の山に積まれていきます。その願い事は、富士山山開きの旧暦6月1日に、本所立川から富士山に飛ばします。願い事を書いた木片が上の職人から下の職人に投げて渡されます。下の職人は、願いごとを書いた木片を、大きな角材の形をした大筒に装填します。二本一組の木材とバラの木材が、その大筒の台座になっています。鋸職人が鋸を手前に引くと願いごとを書いた木片は富士山山頂に飛んでいきます。

描いた年代はわかりませんが、北斎漫画に大砲の図があります。「本所立川」を描いた時には、大砲の概念は持っていたと思います。これから願い事を飛ばす大砲を描いたかもしれません。

富嶽三十六景は、江戸時代だけでなく、現在の読者の想像を膨らませてくれるシリーズ作品です。



図17 「本所立川」は「本所立川の住民の願いを富士山に飛ばしている図」


図17 「本所立川」は「本所立川の住民の願いを富士山に飛ばしている図」











市街地の続きが見えない。

視点の指摘があります・

なお、この絵には構図上の不自然さを指摘することができる。視線が斜め上からになっているにかかわらず、中景の建物群の背後が省略されて、空のように見えることだ。斜め上からの視線の先には、空ではなく市街地の続きが見えなくてはいけない。

本所立川:北斎富嶽三十六景 より引用


「本所立川」の視点は左の夜会木材の塔の上ですので、
「富嶽三十六景
東都浅草本願寺」のように市街地の屋根の続き
が見えるはずですが描かれていません。
富士山を強調するため白い雲で隠しています。左側は省略してます。

富嶽三十六景本所立川」  富嶽三十六景東都浅草本願寺 

             富嶽三十六景本所立川」                          富嶽三十六景東都浅草本願寺             








あ北斎同好会


今回も集まってます

あ北斎同好会


あ北斎同好会の人物及び大砲は北斎漫画から引用








 
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