十国峠(日金山)あれこれ



十国峠に登る

十国峠の読み方

何故十国峠か&
山名の変遷まとめ

山名の変遷
応神天皇~江戸時代

山名の変遷
明治~令和

何故「山」から
「峠」に

広瀬台山画
「日金山頂望富岳図」

葛飾北斎画
「豆州日金山眺望絵巻」

富岡鉄斎画
「富士遠望図」

実朝の和歌







何故「山」から「峠」に








「山」から「峠」に



日金山は明治の時代に十国峠になりました。「十国」は山頂から十国が見えるという石碑があり納得できます。しかし、「山」が「峠」になったのはなぜか。


(1)「峠」がいささか手ごわい。次の二つの定義に分かれる。



❶山地の尾根の峰と峰との間の低い鞍部(あんぶ)をいい、尾根越えの道路が通じており、其の道をも登り詰めたところを峠という。



■日本大百科全書(ニッポニカ)「峠」、■ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「峠」などの百科事典
■大辞林、■新辞林、■学国などの辞書
 
■日本大百科全書(ニッポニカ)「峠」の解説


峠 とうげ

山地の尾根の峰と峰との間の低い鞍部(あんぶ)をいい、尾根越えの道路が通じている所を峠という。低い鞍部は古語で「タワ」「タオリ」「タル」「タオ」などとよばれ、トウゲはタムケ(手向)の転化ともいわれるが、むしろ「タワゴエ」や「トウゴエ」が詰まったものと考えられている。英語でパスpassというのは、通過できるpassableことからきており、山稜(さんりょう)の低所に道が通じているものをいう。


峠とは - コトバンク (kotobank.jp)
 


■ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「峠」の解説

峠 とうげ

山の鞍部をいう。ここを通って多く道が開けている。語源上は「たむけ説」と「たわむ説」とがある


峠とは - コトバンク (kotobank.jp)



■大辞林

とうげ【峠】
とうげ タウゲ [3] 【峠】
〔「手向(タム)け」の転。通行者が旅路の安全を祈って道祖神に手向けた所の意。「峠」は国字〕
(1)尾根の鞍部を越える山道を登りつめた所。道はそこから下りになる。
(2)ものの勢いの最も盛んな時期。絶頂期。「この熱も今が―だ」「インフレも今年が―だろう」

■新辞林、■学国も同「峠」の検索結果 - 広辞苑無料検索 大辞林 (sakura-paris.org)


 


 

❷ 山の坂道を登りつめた最も高い所。山の上り下りの境目。転じて、山。

山の坂道と有るので、山頂へ行く坂道も、中腹を通る坂道も、鞍部を通る坂道も含まれるか。その中で山頂へ行く道が多いため転じて山を示すようになったと推察する。





■精選版 日本国語大辞典「峠」、■デジタル大辞泉「峠」、■広辞苑の現在の辞書
■言海(明治22年)■辞林(明治40年)■辞苑(昭和16年)■広辞苑(昭和10年)の古い辞書


   
  ■精選版 日本国語大辞典「峠」の解説

とうげ たうげ【峠】

〘名〙 (「たむけ(手向)」の変化したもの。通行者がここで道祖神に手向をしてまつり、旅路の平安を祈ったところからいう。「峠」は国字)
① 山の坂道を登りつめた最も高い所。山の上り下りの境目。転じて、山。

峠とは - コトバンク (kotobank.jp)


■デジタル大辞泉「峠」の解説

とうげ〔たうげ〕【峠】

《「たむ(手向)け」の音変化。頂上で通行者が道祖神に手向けをしたことからいう》
1 山道をのぼりつめて、下りにかかる所。山の上り下りの境目。「峠道」
2 物事の勢いの最も盛んな時。絶頂。「病気は今夜が峠だ」「選挙戦が峠にさしかかる」
[補説]「峠」は国字。
[類語](2)頂上・頂点・絶頂・最高潮・山場・山・クライマックス・ピーク

峠とは - コトバンク (kotobank.jp)

広辞苑

とうげ【峠】タウゲ
(タムケ(手向)の転。通行者が道祖神に手向けをするからいう。「峠」は国字)
①山の坂路を登りつめた所。山の上りから下りにかかる境。「―の茶屋」「碓氷―」
②物事の絶頂の時期。極限。極度。「寒さもここ二、三日が―だ」

「峠」の検索結果 - 広辞苑無料検索 (sakura-paris.org)

■日国、■明鏡、■新明解、■漢和辞典
 も同じ
        


明治~戦前の辞書


言海 : 日本辞書 第1-4冊 - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)

辞林 - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)

辞苑 - くうざん、本を見る (hatenadiary.jp)




(2)十国峠は❶尾根の鞍部を越える山道を登りつめたところか❷坂道の上り詰めたところか



下記に示すように十国峠は❷坂道の上り詰めたところ、元日金山の山頂に有ります。❶鞍部の上り詰めたところではありません。




 
十国峠地図
十国峠高低のグラフ
 
十国峠山頂付近                      箱根 十国峠パノラマケーブルカー より引用   

自分はこれまで峠とは尾根の鞍部を越える山道を登りつめたところと信じていたので、❷坂道の上り詰めたところの定義は意外でした。

富士山展望で出てくる峠は、殆ど山並みの中にある鞍部です。箱根外輪山の乙女峠、長尾峠、矢倉沢峠、御坂山地の御坂峠、新道峠、太石峠、鍵掛峠。
世界大百科事典第2版の様に文句を付けたくなります。




■世界大百科事典第2版

【十国峠】より

静岡県熱海市と田方郡函南(かんなみ)町の間,箱根火山の南斜面。標高774m。十州峠ともいい,眺望が相模,武蔵,下総,上総,安房,駿河,遠江,信濃(常陸とする場合もある),甲斐,伊豆の10ヵ国に及ぶとされ,眼前にせまる富士が美しい。古くは日金(ひがね)山といったが,これは火ヶ峰の転訛した名で,
地形も峠と呼ばれるものの鞍部(あんぶ)ではない。かつて,火牟須比命(ほむすびのみこと)をまつる伊豆山神社の旧祀とみられる東光寺(日金地蔵堂)があった。

十国峠とは - コトバンク (kotobank.jp)




しかし、明治時代からの各辞書にあるように❷坂道の上り詰めたところも峠です。次に示すように山の名前として「〇○」峠」があるようです。




(3)山峰の 語 尾 名



,
下記文献に示すように、峠,嶺(-toge, toki )は山峰の語尾名としてかなりく使われています。残念ながら、この文献には。語尾に「峠」が付く山の名前が出ていません。

自分も「十国峠」しか知りません。そこで「峠」が付く山を調べましたが、十国峠も含めて7山です。

●三国峠:名前のとおり、京都府・滋賀県・福井県の県境に位置する山。三国峠 (みくにとうげ) - 三国岳:775m / ヤマケイオンライン (yamakei-online.com)
●三ツ峠(みつとうげ)は、山梨県都留市、西桂町、富士河口湖町の境界にある標高1,785mの山である。峠ではない。三ッ峠山と呼ばれることもある。三つ峠 - Wikipedia
●笹ノ峠は、宮崎県東臼杵郡美郷町と椎葉村の境に位置する山である。山名には「峠」と名の付く山だが、一等三角点の置かれている立派な山で、山頂からの展望は、北東から南東にかけて開けているだけで、他は樹林に囲まれている。笹ノ峠 (ささのとうげ):1,340m / ヤマケイオンライン (yamakei-online.com)
●雁ガ峰峠は、津南町と十日町市を結ぶ峠であるが、山頂を通っているので山として扱った。百山百色:8359雁ヶ峰峠 (plala.or.jp)
●八風峠(はっぷうとうげ)は、滋賀県東近江市黄和田町と三重県三重郡菰野町との間の八風街道途中にある峠。標高は940m[1]。八峯山すなわち八風峠・・・八風峠 - Wikipedia
●仙元峠(せんげんとうげ)、奥多摩の長沢背稜に位置する蕎麦粒山の少し西の尾根にある峠、一般の峠が尾根の鞍部であるのに対し、この仙元峠はピーク部にある。このため、かつては「仙元嶺」とも呼ばれていたようである。仙元峠|最新の山行記録と登山ルートやアクセス、気象状況など-ヤマレコ (yamareco.com)
▲大菩薩嶺は山ですが嶺(とうげ)ではなく嶺(れい)です、大菩薩嶺の尾根道に大菩薩峠が有ります。
▲雁坂嶺も(かりさかとうげ)ではなく(かりさかれい)。
雁坂嶺(かりさかれい)


3. 山 峰 名 の 語 尾 語 と そ の 意 味

山 の 名 の 語 尾 語 の 主 な もの と し て,中野 理 學 士 は 前 の 論 交 に 於 い て,山,嶽,岳,森,峰,嶺,丸,牟 禮,辻,岡 を 擧 げ られ た.筆 者 が 個 數 の 多 い もの か ら順 に 列 擧 す る と次 の に な る.山(-yama, -san, -zan),嶽,岳(-take, -dake),森(-mori),峯,峰,
,宇 根(-mine, -ne, -mune, -une),塚(-tuka53例 … … 以 下 例 の 文 字 を省く)岡,丘(-oka 52),仙,山(-Sen, -zen 37),臺,台,平(-dai,tai 29),富 士(-fuji 24),峠,嶺(-toge, toki 22),辻(-tuji 14),城(-zyo 12),
丸(-maru 11),頭(-tUmu,-atam 11),鼻(-hana 8),壇,段(-dan 5),倉(-kura 4),石(-si,-isi 4),ヌ プ リ,ノ ボ リ(4), 尾(-O, 3),鳥 帽 子(-ebosi, 3),岩(-iwa 3),神,峯(-kami 3),流
,嶺(-nagare 3),畚(-mokko 2),高(-ko 2),立(-tatsu 2),凸 部(-toppu 2),室(-muro,2),野(-ya 2),棚(-tana 2),脊,岨(-some 2),有 珠(-usu 2),塔(-to,
1以 下1略 す),毛 戸(-getto),法 師(-hosi),秀 峯(-tongo),尊(-taka),


 鏡 味 完 二「日本の山峰の語尾名 とその地理學的意義」地 理 學 評 論 第25卷第1號昭 和27年 (1952) 1月-J-STAGEより引用




(4)「峠」と「嶺」




「嶺」は、辞書では「峠」との関係が出てきませんが、「峠」のほうから「嶺」との関連が出てきます。
しかし、「嶺」は、「山の一番高い所。山頂。」で鞍部の道は出てきません。



「嶺」

音読み:リョウ、レイ。訓読み:みね
意味:みね。山の一番高い所。山頂。連なったみね。山なみ。山脈。
 漢字辞典オンラインより引用



「峠」
峠(とうげ)とは、山道を登りつめてそこから下りになる場所。山脈越えの道が通る最も標高が高い地点。
「峠」という文字は室町時代に日本で会意で形成された国字(和製漢字)である
なお、中国語では、「嶺」(簡体字は岭)という字で峠の地形を表す事が多い。例えば、万里の長城のある「八達嶺」や、映画『あゝ野麦峠』の中国公開時の題名『啊!野麥岭』などがある。また、「山口」と表記する例もある。
 峠 - Wikipediaより引用

江戸中期の書〔同文通考・国字〕に「峠(トウゲ)」:嶺なり。嶺は高山の踰(こえ)て過ぐべきものなり」とあるので、嶺は峠と同じように使われていたようです。


【峠】
『運歩色葉集』・『異體字辨』・『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「タウゲ」、『合類節用集』に「タウゲ 字未詳或ハ倒下ト曰」、『同文通考』に「トウゲ 嶺也嶺ハ高山之踰テ而過ク可キ者也」、『和字正俗通』に「トウケ」また対応する漢字として「嶺」、『倭字攷』に「タウケ 嶺 ○和爾雅 和漢名数 音訓國字格(中略)从山从上下、皇國會意之字」とある。『和爾雅』には、「倭俗ノ制字」として「タウゲ 嶺ノ字ヲ用宜」とある。韓国の漢字規格にもあるが、『漢韓最新理想玉篇』は日本字とする。『中華字海』にもあるが典拠がなく、新しい文字か日本の国字を輸入したものか。国字であると考えられる
 日本語を読むための漢字辞典 和製漢字の小辞典 一画~四画より引用



「峠」と「嶺」が山以外を示す可能性は次の二点です。

中山介山 「峠」という字

 本来の漢字によれば「峠」は「嶺」である、嶺の字義に関しては「和漢三才図会」に次の如く出ている。

  按嶺山坂上登登下行之界也、与峯不同、峯如鋒尖処、嶺如領腹背之界也、如高山峯一、而嶺不一。

 これによって見ると、嶺は峯ではない、山の最頂上では無く、領とか肩とかいう部分に当るという意味である。恐らく、これが漢字の本意であろう。して見ると、嶺字を以て「峠」に当てるのは妥当ならずということは無いが、「峠」という字には「嶺」という字にも西洋語のパスとかサミットとかいう文字にも全く見られない含蓄と情味がある。
 和語の「たうげ」は「たむけ」だという説がある、人が旅して、越し方と行く末の中道に立って、そうして、越し方をなつかしみ、行く末を祈る為に、手向をする、祈願をする、回向をする――といったような縹渺たる旅情である。

 中里介山 「峠」という字-青空文庫 より抜粋



朝鮮では 「嶺 」は 峠を意味 し,山 には この漢字 を用い ない

 鏡 味 完 二「日本の山峰の語尾名 とその地理學的意義」地 理 學 評 論 第25卷第1號昭 和27年 (1952) 1月 p8-J-STAGEより引用




今のところ、「峠」が❶鞍部の上り詰めたところの由来、根拠は出てきません。❶を出した百科事典、辞書がその根拠を示して頂きたいという気持ちです。




(5)そのため、何故十国峠になったかは個人的に推察



❶江戸時代に河村岷雪画で「十国峠」、鈴木重胤著「日本初期伝」で「日金嶺」、」松崎復著「游豆小志・游記」で「十国嶺」とあり、山を表す語尾として「峠」、「嶺」が最有力候補。


❷地元の住民が、「十国」の下に山を表す語尾を付けて比較検討した。その中で、十国峠、十国嶺が最も音感が良く、呼びやすく、見た目も良いと感じて決定した。そののち十国峠が主に使われるようになった。


        十国山、十国嶽、十国岳、十国森、十国峯、十国峰、十国宇根、十国塚、十国丘、

       十国岡、十国仙山、十国臺、十国富士、十国丸、十国峠十国嶺













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