❷古池や蛙とび込む水の音 幸田露伴著「露団々」 1890年(明治23年) 幸田露伴は、俳諧評釈「春の日・曠野抄(1927年6月、岩波書店)」、「評釈 芭蕉七部集(1947年完成)。岩波書店7巻組、復刻1983年、1993年」を出版していますが、ネットでは閲覧できません。若い時、1889年に書いた小説「露団々」に「古池や蛙とび込む水の音」と新規の表記を行っています。 「とび込む」が新規です。「とび込む」で、なぜ「飛び込み」と「飛」の漢字を使わないのか、その意図がわかりません。「込む」と送り仮名を付けるのは江戸時代最後の1868年に小築庵春湖輯「芭蕉翁古池真伝」ででています。
❸古池や蛙とひこむ水のおと 錦花庵三郎 校「俳諧七部集:校正」1892年明治25年 ③1686年(貞享3年)山本荷兮編集「春の日」と同じ表記です。まだ、変体仮名(へんたいがな)の ![]() ![]() 変体仮名とは、平仮名の字体のうち、一音一字に統一された1900年(明治33年)の小学校令施行規則改正以降の学校教育で用いられていない平仮名の総称です。【みんなの知識 ちょっと便利帳】変体仮名(へんたいがな)- 「あ行」
❹古池や蛙飛こむ水の音 堀成之著「今古雅談」1892年(明治25年) ⑥1732年柳居編集「校正七部集・春の日」と同じ表記 ◆❺❻は正岡子規の新規表記です❺古池や蛙とびこむ水の音 ❻古池や蛙飛びこむ水の音 正岡子規 著「獺祭書屋俳話」 1893年(明治26年)の表記 ❻古池や蛙飛びこむ水の音 「俳諧大要」初出:「日本」日本新聞社 1895年(明治28年)の表記 ❻古池や蛙飛びこむ水の音 ❶古池や蛙飛び込む水の音 正岡子規 「古池の句の弁」 1898年(明治31年)の表記。 ![]() 正岡子規は上記の三つの文書内で、江戸時代にはない新しい表記を二つ行なっています。また、「獺祭書屋俳話」、「古池の句の弁」では、同じ文書内に二つの表記をしています。 江戸時代の「とびこむ」の表記は「飛込」「飛込む」「飛こむ」「とひ込」「とひこむ」「飛込む」です。漢字「飛」に送り仮名を付けません。また濁音「び」ではなく「ひ」と表記します 子規 は、仮名だけでも濁音「び」を用いて「とびこむ」、また漢字「飛」に送り仮名として濁音「び」を付けて「飛びこむ」、として新しい表記を行いました。また「飛び込む」も使用しています。 これらの「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の表記に関して以下の様に纏めます。 (ⅰ)芭蕉が行った「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の各表記は全く気にせずに、江戸時代にはなかった三種の表記を行っています。 (ⅱ)一つの文書内で二つの表記を行なっています。正しいとされる表記はないと言っています。 (ⅲ)昭和16年の辞書でも「とびこみ【飛込み】」としているのに、現在と同じ送り仮名「飛び込む」で表記しています。 (ⅳ)❻「古池や蛙飛びこむ水の音」は現在の小学校の教科書に、❶「古池や蛙飛び込む水の音」は現在の中学校の教科書に採用されています。 (ⅴ)上記❻、❶はGoogle検索で調べた表記の中で、最も使われている表記です。 (ⅰ)(ⅱ)では、子規は俳句には正規の表記はない、その場に適した表記を用いるのが良いと主張しているようです。芭蕉と同じです。しかし、同じ文書内にある二つの表記がその場所での最適な表記であるか否かは読み取れませんでした。同じ文書内で二つの表記を用いた子規の意図が知りたいです。 また、著作権のある現代の俳句ではどのようになっているかも知りたいです。 (ⅲ)俳句の送り仮名について 「俳句入門書」に、俳句では「 名詞には送り仮名を付けず、動詞には送り仮名を付けて、両者を見分けています」とありますが、江戸時代には、「ふるいけや」の「飛込(とびこむ)」のように動詞でも送り仮名を付けていません 「奥の細道」の次の三句では、二句で送り仮名を付けていません。 「行春や鳥啼魚の目は泪」 「田一枚植て立去る柳かな」 「閑さや岩にしみ入蝉の声」 さすがに「田一枚植立去柳かな」では漢文のようになるので送り仮名を付けていると思います。他の二句のように、送り仮名を付けなくとも読み取れる場合は付けないのが普通かもしれません。 明治に送り仮名を統一しようとする動きがありますが、国語調査委員会の「送仮名法」ができたのは明治40年です。 辞書類で調べると 明治22年の日本初の近代国語辞典「言海」では「とびこむ」はなく、「と・ぶ 【飛】」 明治40年の「辞林では、「とび-こ・み 【飛込】 【飛】、【飛込】と送り仮名はないがその時の用途により適当に付けなさいということか否かがわからない。 昭和6年の「辞苑」では「とび-こ・み 【飛込み】と明確に送り仮名が付きます さらに平成20年の「広辞苑」では「とび-こ・み 【飛び込み】として、【飛込み】を除いています。(一部の辞書では【飛び込み】【飛込み】のように二つの表記もあります) 明治26、30年にその時の辞書にもない「飛びこむ」と「飛び込む」の表記を行った子規はさすがです。 (ⅳ)(ⅴ)は後で記述。 尚、「古池や」の論評も抜粋して載せておきます。次の様に書いてます 「見よ、『芭蕉集』中此(かく)の如く善悪・巧拙を離れたる句、他にこれありや。余は一句もこれ無きを信ずるなり。」
送り仮名について-俳句、辞書
◆阿心庵雪人編 芭蕉全集 1897年(明治30年)の文書で四個の表記❼古池や蛙とひこむ水のおと ❽古池や蛙飛び込む水の音 ❾古池や蛙飛込む水の音 ❿ふるいけや蛙とひこむ水の音 一つの文書で四個の表記を行っています。 ❼古池や 蛙とひこむ水のおとは句集「波留濃日」③に有る句で、❽古池や蛙飛び込む水の音は❶と同じで、❾古池や蛙飛込む水の音は ![]() ❿ふるいけや蛙とひこむ水の音は新規表記です。これらを、どのように使い分けているか定かではありません。 ❾古池や蛙飛込む水の音は芭蕉真蹟とある。真蹟と同じ表記とすると送り仮名のある「飛込む」の表記は貞享二年に芭蕉がしたことになる。しかし、「句選年考」を見ると「古池」ではなく「山吹」の横に「古池」がある。「飛込む」ではなく「とびこむ」である。芭蕉真蹟がどのようなものかはっきりしない。本物の芭蕉真蹟と認定された倉次郎所持の史料を見ないとこの表示は論じないことにする。
(2)大正時代
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佐々醒雪, 巌谷小波 校「芭蕉翁全集」芭蕉翁絵詞伝 芭蕉翁俳句俳文集 1916年(大正5年) |
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古池や蛙とびこむ水の音 |
古池や蛙とびこむ水のおと |
![]() |
芭蕉翁全集 23、32、118/335- 国立国会図書館より引用 |
◆蝶夢 著幸田露伴 校「芭蕉翁絵詞伝 芭蕉翁俳句俳文集」1926年(大正15年)
⓯古池や蛙とびこむ水の音 ⓰古池や蛙とび込むみづの音
⓫、⓬と同じ構成で同じ挿絵を使っており、⓯は⓫と同じ表記ですが、⓰古池や蛙とび込むみづの音が新しい表記です。校正の幸田露伴の明治23年の表記は ❶古池や蛙とび込む水の音。その表記の「水」を「みづ」に変える意図がわからない。「みづ」の表記はこれが最初です。
蝶夢 著幸田露伴 校「芭蕉翁絵詞伝 芭蕉翁俳句俳文集」 1926年(大正15年) |
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古池や蛙とびこむ水の音 |
古池や蛙とび込むみづの音 |
![]() |
芭蕉翁絵詞伝 芭蕉翁俳句俳文集16,,21,71/ 159- 国立国会図書館より引用 |
(3)昭和時代
昭和から平成の書物は、江戸時代の①「蛙合」 ②「春の日」と明治の正岡子規の❺、❻の表記が多い。
⓱古池や蛙飛こむ水のをと ②「春の日」と同 岩波文庫・伊藤松宇校訂「芭蕉七部集・春の日」1927年(昭和2年)
1686年(貞享3年)刊の句集「春の日」を原本としてそれに基づき表記している。
⓲古池や蛙飛こむ水のをと ②「春の日」と同 日本俳書大系. 第2巻 勝峰晋風編 1934年(昭和9年)
⓳古池や蛙飛こむ水のおと ①「蛙合」と同 日本俳書大系. 第2巻 勝峰晋風編 1934年(昭和9年)
出典の初版本と推定した原本に基づき表記していますしています。
1824年の⑨芭蕉翁俳諧四部録 内「蛙合」改版からほぼ100年ぶりで①古池や蛙飛こむ水のおとが表記されています。
勝峯晋風編本俳書大系. 第2巻 1934年(昭和9年) |
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"(芭蕉時代第2) (蕉門俳諧前集) 春の日 荷兮撰 |
古池や蛙飛こむ水のをと |
(芭蕉時代第2) (蕉門俳諧前集) 蛙合 仙化撰 |
古池や蛙飛こむ水のおと |
俳書大系:近世俳諧・俳論・俳文などの俳書三百四十余巻および歌仙・附合ほか数十点を集大成した近世俳諧史・近代文学史研究の基本資料集成。 勝峰 晋風(カツミネ シンプウ 明治20(1887)年-昭和29(1954)年1月31日)本名勝峰 晋三学歴〔年〕東洋大学〔明治43年〕卒 経歴小樽新聞、報知新聞、万朝報、時事新報等の記者を歴任し、関東大震災以後は、俳諧の研究や著述に専念する。大正15年「黄橙」を創刊。15年から昭和3年にかけて「日本俳書大系」全17冊を編纂し、昭和6年「新編芭蕉一代集」4冊を刊行。句集「汽笛」や「明治俳諧史話」「奥の細道創見」などの著書がある。 |
日本俳書大系. 第2巻(芭蕉時代第2) (蕉門俳諧前集) 春の日 67/342 蛙合90/342- 国立国会図書館より引用 |
⓴古池や蛙飛び込む水の音 ❶矢野と同 社会教育会 「編俳句を作る人のために」 1934年(昭和9年)
芭風の境地と代表作が書かれています。
社会教育会 「編俳句を作る人のために」 1934年(昭和9年) |
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悩みに悩んだ結果始めて到達した幽玄閑寂な芭風の境地
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俳句を作る人のために20/91- 国立国会図書館デジタルコレクション )より引用 |
古池や蛙飛び込む水の音 ❶矢野と同 太宰治著「津軽」 1944年(昭和19年)
太宰治は矢野、子規の表記を行い芭蕉の句を絶賛しています。
太宰治著「津軽」 1944年(昭和19年) |
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古池や蛙飛び込む水の音
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古池や蛙飛び込む水の音。さう思つてこの句を見直すと、わるくない。いい句だ。当時の檀林派のにやけたマンネリズムを見事に蹴飛ばしてゐる。謂はば破格の着想である。月も雪も花も無い。風流もない。ただ、まづしいものの、まづしい命だけだ。当時の風流宗匠たちが、この句に愕然としたわけも、それでよくわかる。在来の風流の概念の破壊である。革新である。いい芸術家は、かう来なくつちや嘘だ、とひとりで興奮して、その夜、旅の手帖にかう書いた。 |
太宰治 津軽 -青空文庫より引用 |
古池や蛙飛こむ水のおと ①「蛙合」と同 勝峯晋風校訂「芭蕉全集 上」 1948年(昭和23年)
⓲⓳の日本俳書大系. 第2巻 勝峰晋風編と同じ編者。戦後でも「蛙合」の表記①が出ています。
勝峯晋風校訂「芭蕉全集 上」 知平社 1948年(昭和23年) |
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古池や蛙飛こむ水のおと
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芭蕉全集. 上巻32/226 - 国立国会図書館より引用 |
古池や蛙飛びこむ水の音 ❻子規と同 秋元富死男著俳句入門 1971年(昭和46年)
「ふるいけや」の翻訳は難しい。それは「古池や」は「古池に」ではないからである。
秋元富死男著俳句入門 角川選書52 1971年(昭和46年) |
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古池や蛙飛びこむ水の音
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俳句入門 - Google Booksより引用 |
(4)平成時代

「このサブゼ ミで は、 私の研究の周辺の 表面物理 、メソヌ コ ピッ ク物里 あるい は、 ナノ テ クノロ ジーと言われる分野での最近の トピ ッ クス を平易に紹介する。」 で始まり、「古池や蛙飛び込む水の音」がでてきます。
長谷川修司著「電子波と表面」 1995年(平成7年) |
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古池や蛙飛び込む水の音
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_物性研究. 65(2)より引用 |
◆昭和、平成で初めての新規表記

平成になっても旧仮名の「飛ひこむ」の表記があり、新規表記です。探し方が下手なためか昭和、平成で初めての新規表記です。
松井貴子著「写生の変容: フォンタネージから子規、そして直哉へ」 明治書院2002年(平成14年) |
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古池や蛙飛ひこむ水の音 |
古池や蛙飛ひ込む水の音是なり。此際芭蕉は自ら俳諧の上に大悟せりと感じたるが如し。今迄はいかめしき事をいひ、珍しき事を工夫して後に始めて佳句を得べしと思ひたる者も今は日常平凡の事が直に可となることを發明せり。 |
待井貴子著「写生の変容」2002年 - Google Booksより引用 |
◆一つの文書に「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の表記が6個
古池や蛙飛びこむ水の音 ❻子規と同 その他の表記五つ
奥田喜八郎著「異文化コミュニケーション」に関する 講義準備ノートの一部. (そのⅠ− 2 :詩人松尾芭蕉作「古池や蛙飛びこむ水の音」 敬愛大学国際研究/23号/2009年(平成21年)
一つの文書に「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の表記が6個出てきます。著者が気まぐれで表記を変えているのではなく、引用する文書の表記を忠実に記載したためです。正岡子規、幸田露伴と「春の日」、「七部集」の表記が使われており平成の表記の使用状況がわかります。
|
表記 |
前の表記 |
回数 |
引用部の著者 | ||
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1 |
|
古池や蛙飛びこむ水の音 |
❻子規と同 |
4 |
奥田喜八郎 |
|
2 |
![]() |
古池や蛙飛び込む水の音 |
❶矢野と同 |
1 |
田中義信 |
|
3 |
|
古池や蛙飛こむ水のをと |
②「春の日」と同 |
1 |
山本健吉 |
|
4 |
![]() |
古池や蛙とびこむ水の音 |
❺子規と同 |
1 |
山本健吉 |
|
5 |
![]() |
古池や蛙飛こむ水の音 |
⑥と同 |
2 |
嵐山光三郎 |
|
6 |
![]() |
古池や蛙とび込む水の音 |
❷露伴と同 |
1 |
工藤寛正 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
古池や蛙飛びこむ水の音 ❶矢野と同
に続き、ここでも「古池や」と「古池に」が出てきます。
長谷川櫂著「古池に蛙は飛びこんだか」 中公文庫 2013年(平成25年) |
---|
古池や蛙飛び込む水の音
|
古池や蛙飛びこむ水のおと―蕉風開眼として名高いこの句は「古池に」と一文字替えた途端、凡句となりはててしまう。「や」というたった一文字によって、芭蕉はひとつの高みに到達し、俳句は芸術となった。本書では、古池の句の真実、その後の数々の名句を詳述。創造の現場を目の当たりにするかのような興奮と感動が溢れる芭蕉論。 |
古池に蛙は飛びこんだか - Google Booksより引用 |
切れ字 「や」 |
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俳句では、リズムを整えるために「切れ字」が使われてきました。切れ字は、俳句の意味の切れるところ(句読点の「。」を置く位置)に入れて使います。意味としては、「~だなあ」「~であることよ」となり、切れ字によって前の言葉を強調することができます。 |
【俳句の切れ字の覚え方】より引用 |
◆小学校、中学校の教科書の表記は正岡子規と矢野と


小学三年生と中学三年生の「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の表記は、正岡子規が明治28年、31年に用いた表記を使っています。
現在の辞書に出ている送り仮名が使われています。しかし、小学三年生「蛙飛びこむ」と中学校三年生「蛙飛び込む」の中七が違います。中学校三年生では「込む」と漢字が使われています。
小学校では「込む」の漢字を学習しないためかと考えましたが違います。、「込む」は中学校1-3年で習う漢字ですが、「飛ぶ」は小学校4年で習う漢字です。また、「蛙」は常用外漢字です。
常用漢字(じょうようかんじ)とは、「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」として、内閣告示「常用漢字表」で示された現代日本における日本語の漢字である。
しかし、古典の文などを表記する場合、次の様に振り仮名を付ければ使用しても良いとされているようです。
そのため、小学校三年生の教科書で「飛びこむ」になった利用がわかりません。小学校教科書担当者が漢字が少ない方が良いとした、と推察します。
小学三年の教科書 2018年(平成30年) |
---|
|
❻子規と同
|
学習者分析に基づく小学3年生の俳句観より引用 |
中学三年の教科書 2010年(平成22年) |
---|
|
❶矢野と同
|
中学校第三年国語科学習指導案より引用 |
2008年(平成20年)広辞苑の「飛び込む」 |
「ふるいけや」の漢字学習 |
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|
古:小学校2年で習う
|
◆❻子規と同;小学三年生の教科書の表記を行っているサイト
古池や蛙飛びこむ水の音 < Wikipedia
古池や蛙飛びこむ水の音 山梨大学芭蕉DB
◆❶矢野と同;中学三年生の教科書の表記を行っているサイト
古池や蛙飛び込む水の音 松尾芭蕉の有名俳句 29選
古池や蛙飛び込む水の音 古文辞書 - Weblio古語辞典
◆明治に使われた①、②の表記も、Google検索で探すと有ります。
古池や蛙飛こむ水のおと ①「蛙合」と同 芭蕉は後から「古池や」を足した | NHKテキストビュー
古池や蛙飛こむ水のおと ①「蛙合」と同 「古池や 蛙飛こむ 水のおと」は人間の一生
古池や蛙飛こむ水のをと ②「春の日」と同 芭蕉の年譜と句
◆現代の俳句を確立した正岡子規を感激させた文暁編「芭蕉臨終記 花屋日記」が、その後偽書とされた。
偽書とされた後、世の中の扱いがどのようになったかを調べたら、この本に関する文書だけで「古池の」の表記は9種類もあり、その過程で新規表記も出てきました。
法華経にある釋尊の辭世である「諸法從來常示寂滅相」はすべて同じです。
古池や蛙とび込水の音 新規9
現在でも、「芭蕉臨終記 花屋日記」は偽書と断言してその文書の価値を認め掲載しています。
偽書「芭蕉臨終記 花屋日記」(Ⅴ ) 2014年(平成26年) |
---|
古池や蛙とび込水の音 |
支考・乙州等、去來に何かさゝやきければ、去來心得て、病床の機嫌をはからひて申て云、古來より鴻名の宗師、多く大期に辭世有。さばかりの名匠の、辭世はなかりしやと世にいふものもあるべし。あはれ一句を殘したまはゞ、諸門人の望足ぬべし。師の言、きのふの擧句はけふの辭世、今日の擧句はあすの辭世、我生渡云捨し句々、一句として辭世ならざるはなし。若我辭世はいかにと問人あらば、此年頃いひ捨おきし句、いづれなりとも辭世なりと申たまはれかし。諸法從來常示寂滅相、これは是釋尊の辭世にして、一代の佛教、此二句より外はなし。古池や蛙とび込水の音、此句に我一風を興せしより、初て辭世なり。其後百千の句を吐に、此意ならざるはなし。こゝをもつて、句々辭世ならざるはなしと申侍る也と。次郎兵衞が傍より口を潤すにしたがひ、息のかぎり語りたまふ。此語實に玄々微妙、翁の凡人ならざるをしるべし。(支考記) *底本は小宮豊隆校訂「芭蕉臨終記 花屋日記」(昭和一〇(一九三五)年岩波文庫刊)を用いた。 (Google検索で句の表記確認 ![]() 1810年(文化7年 )文暁編「翁反故 : 花屋日記」では「古池や蛙とひ込水の音」であるが、小宮豊隆校訂で「古池や蛙とび込水の音」にしたようである。「ひ」から濁音「び」に変更。 そのため、此の新規表記の表記は明治35年、小宮豊隆作となる。 「諸法從來常示寂滅相」について ![]() 〈134〉法華経に学ぶ 方便品「諸法従本来 常自寂滅相 仏子行道已 来世得作仏」#shorts - YouTubeより引用 ・じゃく‐めつ【寂滅】 〘名〙 (nirvāṇa の訳語。涅槃(ねはん)と音訳する)
① 仏語。迷いの世界を離脱している境界。無明、煩悩の境界を離れた悟りの境地。また、その境地にいたるこ
寂滅とは - コトバンク |
偽書「芭蕉臨終記 花屋日記」(Ⅴ) ――芭蕉の末期の病床にシンクロして Blog鬼火~日々の迷走より引用 |
この「花屋日記」は岩波書店が文庫化する時点で偽書とされていた。岩波文庫が偽書として文庫にする所が異例であるが、その経緯が次に書かれている。
「それが偽書として----肥後の僧分暁の創作として、取り扱はれるといふ事である」
小宮豊隆 著「人と作品」の「花屋日記」 |
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![]() 小宮豊隆 著「人と作品」の「花屋日記」出版者小山書店出版年月日昭和18年 |
*ちょうさん‐りし チャウサン‥【張三李四】 〘名〙 (中国に多い姓である張氏・李氏の三男、四男の意) その辺にいくらでもいるありふれた人。身分もなく名もない人々。平凡な人。熊公・八公の類。 小宮豊隆(1884-1966):東京帝国大学独文科卒業。明治末期、夏目漱石(そうせき)門下の論客として活躍、『東京朝日新聞』文芸欄を中心に反自然主義の論陣を張る。、数度の『漱石全集』(岩波書店)の編集・解説(のち『漱石の芸術』1942)の仕事や伝記『夏目漱石』(1938)に結晶し、漱石研究に不滅の基礎を築いた。古典研究『芭蕉(ばしょう)の研究』(1933) 小宮豊隆とは - コトバンク (kotobank.jp)から抜粋 |
人と作品 39/190- 国立国会図書館デジタルコレクションより引用より引用 |
その偽書「花日記」での、原文の表記は「古池や蛙とひ込水の音」であるが岩波文庫では「古池や蛙とび込水の音」である。小宮豊隆が旧仮名遣いを現代仮名遣いに訂正したと考える。
この偽書に興味がわき、この箇所を引用している書物を調べた。花屋日記でGoogle検索、諸法從來常示寂滅相でGoogle-書物検索を行なうと沢山の書物が出てきます。「花日記」を偽書としていないものもあります。
目的は「ふるいけや」の表記ですので年代順に掲載します。
出典 | 刊行年 | 表記 | |
文暁編「翁反故 : 花屋日記」 | 1810年(文化7年 ) |
⑳古池や蛙とひ込水の音 |
⑳と同 |
俳諧歳時記栞草 | 1892年(明治25年) | ![]() |
⑥と同 |
正岡子規 古池の句の弁 | 1898年(明治31年) | ![]() |
❻と同 |
芭蕉翁花屋日記 晩鐘会出版 | 1902年(明治35年) | ![]() |
新規10 |
長田權次郎「德川三百年史」 | 1903年(明治36年) | ![]() |
![]() |
加藤咄堂修養論 | 1909年(明治42年) | ![]() |
❶と同 |
花屋日記 :芭蕉終焉記 : 全 | 1916年(大正5年) | ![]() |
❺と同 |
文暁編「翁反故 : 花屋日記」 | 1920年(大正9年) | ||
俳句文学全集嶋田青峰編蝉脱 | 1938年(昭和13年) | ||
小宮豊隆校訂「芭蕉臨終記 花屋日記」岩波文庫 | 1935年(昭和10年 | ![]() |
新規9 |
芭蕉翁編年誌 | 1958年(昭和33年) | ||
偽書「芭蕉臨終記 花屋日記」 | 2014年(平成26年) | ||
山口素堂資料室 :芭蕉終焉記 | 2021年(令和3年) | ||
秘すれば花 | 2010年(平成22年) | ![]() |
❷と同 |
9種類 |
文暁編「翁反故 : 花屋日記」 。成立年:文化七(1810)」 |
---|
⑳古池や蛙とひ込水の音 |
![]() 文暁編「翁反故 : 花屋日記」〈序〉文化7年文暁自序。〈形〉書袋付。成立年:文化七(1810) |
文暁 ぶんぎょう;1735-1816 江戸時代中期-後期の俳人。 享保(きょうほう)20年生まれ。肥後(熊本県)八代(やつしろ)の真宗仏光寺派正教寺の住職。蝶夢(ちょうむ)らと親交があった。松尾芭蕉(ばしょう)の直弟子に仮託した偽書「芭蕉翁反古文(ほごぶみ)」(「花屋日記」)をあらわした。文化13年3月3日死去。82歳。俗姓は藁井(わらい)。法名は法侶(ほうりょ)。別号に紫海,渡白人,乞隠など。文暁とは - コトバンク |
文暁編「翁反故/花屋日記」18/51-日本古典籍総合データベース より引用 |
俳諧歳時記栞草p14-googleブックス 1892年(明治25年) |
![]() |
![]() |
正岡子規 古池の句の弁 1898(明治31年)-あおぞら文庫 |
![]() |
諸法従来常示寂滅相、これは釈尊の辞世にして一代の仏教この二句より外はなし。 古池や蛙飛びこむ水の音、この句に我一風を興せしよりはじめて辞世なり。 |
芭蕉翁花屋日記 晩鐘会出版 1902年(明治35年) 15/47- 国立国会図書館 |
![]() |
![]() |
長田權次郎「德川三百年史 - 第 2 巻」p495-googleブックス 1903年(明治36年) |
![]() |
![]() |
加藤咄堂修養論p461-googleブックス 1909 年(明治42年) |
![]() |
![]() |
.翁俳諧名著文庫「翁反故 : 花屋日記 」- 国立国会図書館 1916年(大正5年) |
![]() |
![]() |
俳聖芭蕉全集文暁編「翁反故 : 花屋日記」 166/186- 国立国会図書 1920年(大正9年) |
![]() |
![]() |
俳句文学全集嶋田青峰編蝉脱27p- Google ブックス 1938年(昭和13年) |
![]() |
![]() |
芭蕉翁編年誌 p 549 Googleブックス 1958年(昭和33年) |
![]() |
諸法從來常示寂滅相、これは是釋尊の辞世にして一代の佛教此二句より外なし、 古池や蛙とび込水の音、此句に我一風を興せしより初て辞世なり。 |
山梨県 歴史文学館 山口素堂資料室 : 真書か偽書か? 芭蕉終焉記(2) |
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諸法従来當示寂滅相、これは是釈尊の辞世にして、一代の仏教この二句より外はなし。 古池や蛙とび込水の音、 比句に我一風を興せしより、初て辞世なり |
秘すれば花 暴かれて泥 : 2010年(平成22年) |
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諸法従来常示寂滅相、これは是釈尊の辞世にして、一代の仏教、此二句より外になし。 古池や蛙とび込む水の音 此句に我一風を興せしより、初めて辞世なり。 |
「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」の明治・大正・昭和・平成・令和の表記一覧表
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明治以降の活字による表記
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新規表記
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刊行年 |
出典 |
❶ | 古池や 蛙飛び込む 水の音 | 新規1 | 1884年 明治17年 |
矢野文雄著演説文章組立法 - 国立国会図書館 ❶現在の中学校教科書の表記 |
❷ |
古池や 蛙とび込む 水の音 |
新規2 |
1890年
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幸田露伴 著「露団々」 6/88- 国立国会図書館 |
❸ |
古池や 蛙とひこむ 水のおと |
③と同 |
1892年
|
俳諧七部集:校正11/194- 国立国会図書館 |
❹ |
古池や 蛙飛こむ 水の音 |
⑥と同 |
1892年
|
堀成之著「今古雅談」147/228 - 国立国会図書館 |
❺
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古池や 蛙とびこむ 水の音
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新規3
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1893年
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一つの文書に、二つの表記
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❼
-- |
古池や 蛙とひこむ 水のおと
ふるいけや 蛙とひこむ 水の音 |
③と同
----- |
1897年
|
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❿ |
古池や 蛙とび込む 水の音 |
❷と同 |
1911年
|
日本俳諧史 118/374- 国立国会図書館 |
⓫
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古池や 蛙とびこむ 水の音
|
❺と同
|
1916年
|
芭蕉翁全集 芭蕉翁絵詞伝
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⓭ |
古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
1922年
|
小林一郎 著七部集連句評釈 : 芭蕉・春の日98/463 - 国立国会図書館 |
⓮ |
古池や 蛙飛こむ 水の音 |
⑥❹と同 |
1925年
|
芭蕉七部集定本30/291 - 国立国会図書館 |
⓯
|
古池や 蛙とびこむ 水の音
|
❺子規と同
|
1926年
|
芭蕉翁絵詞伝 芭蕉翁俳句俳文集23,71/ 159- 国立国会図書館 |
⓱ |
古池や 蛙飛こむ 水のをと |
②と同 |
1927年
|
岩波文庫・芭蕉七部集・春の日22/172- 国立国会図書館
|
⓲
|
古池や 蛙飛こむ 水のをと
|
②と同
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1934年
|
日本俳書大系. 第2巻 春の日 67/342
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⓴ |
古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
1934年
|
俳句を作る人のために20/91- 国立国会図書館 |
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古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
1944年
|
太宰治 津軽 -青空文庫 |
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古池や 蛙飛こむ水のおと |
①と同 |
1948年
|
芭蕉全集. 上巻32/226 - 国立国会図書館 |
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古池や 蛙飛びこむ水の音 |
❻子規と同 |
1971年
|
秋元富死男著俳句入門 - Google Books |
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古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
1995年
|
電子波と表面.pdf 13/15-表面物性 |
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古池や蛙飛ひ込む水の音 | 新規8 |
2002年 平成14年 |
松井貴子著「写生の変容: フォンタネージから子規、そして直哉へ」 |
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古池や 蛙飛びこむ 水の音
|
❻子規と同
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2009年
|
奥田喜八郎著「異文化コミュニケーション」に関する 講義準備ノート
奥田喜八郎 田中義信 |
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古池や 蛙飛びこむ 水の音 |
❻子規と同 |
2013年
|
古池に蛙は飛びこんだか - Google Books |
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古池や 蛙飛びこむ 水の音 |
❻子規と同 |
2014年
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2014年(平成26年)小学3年生の表記
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古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
2010年 平成22年 |
2010年(平成22年)中学3年生の表記
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古池や 蛙飛びこむ 水の音 |
❻子規と同 |
2022年
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サイトの百科事典
古池や蛙飛びこむ水の音 - Wikipedia |
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古池や 蛙飛びこむ 水の音 |
❻子規と同 |
1997年から 平成9年 |
芭蕉俳句の中心サイト
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古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
2021年
|
松尾芭蕉の有名俳句 29選
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古池や 蛙飛び込む 水の音 |
❶と同 |
2022年
|
古文辞書 - Weblio古語辞典 |
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古池や 蛙飛こむ 水のおと |
①と同 |
2013年
|
芭蕉は後から「古池や」を足した | |
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古池や 蛙飛こむ 水のおと |
①と同 |
2022年
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「古池や 蛙飛こむ 水のおと」は人間の一生
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古池や 蛙飛こむ 水のをと |
②と同 |
2022年
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芭蕉の年譜と句 |
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古池や蛙とび込水の音![]() ![]() |
新規9 |
2014年 平成26年 1935年 平成10年 |
偽書「芭蕉臨終記 花屋日記」(Ⅴ) 底本は芭蕉臨終記花屋日記 - 文曉 - Google ブックス(昭和10(1935)年岩波文庫刊) |
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古池や蛙飛こむ水の音 |
⑥と同 |
1902年 明治35年 |
芭蕉翁花屋日記 晩鐘会出版 15/47- 国立国会図書館 |
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古池や蛙飛びこむ水の音 | ❻子規 | 1898年 明治31年 |
正岡子規 古池の句の弁 -あおぞら文庫 |
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古池や蛙飛ひ込む水の音 | 新規10 | 1902年 明治35年 |
芭蕉翁花屋日記 晩鐘会出版 15/47- 国立国会図書館 |
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古池や蛙飛込む水の音 | ![]() |
1903年 明治36年 |
長田權次郎「德川三百年史 - 第 2 巻」p495-googleブックス |
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古池や蛙飛び込む水の音 | ❶と同 | 1909 年 明治42年 |
加藤咄堂修養論p461-googleブックス |
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古池や蛙とびこむ水の音 | ❺子規と同 | 1916年 大正5年 1920年 大正9年1938年 昭和13年 |
・翁俳諧名著文庫「翁反故 : 花屋日記 」- 国立国会図書館 ・俳聖芭蕉全集文暁編「翁反故 : 花屋日記」 166/186- 国立国会図書 ・俳句文学全集嶋田青峰編蝉脱27p- Google ブックス |
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古池や蛙とび込む水の音 | ❷露伴と同 | 2010年 平成22年 |
秘すれば花 暴かれて泥 : |
各時代の上五、中七、下五
時代 |
上五 |
中七 |
下五 |
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江戸時代
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古池や (18)
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蛙飛こむ (8)
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水のおと (7)
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明治から現在
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古池や (53)
|
蛙とび込む (4)
|
水の音 (42)
|
「ふるいけや」の各語句の表記
下表に示すように、「ふるいけや」の表記の検討で、今回掲載した表記は66句有ります。各部の表記は、「古池や」、「蛙」、「水の音」は67%以上です。それに13種の「とびこむ」が付加されて表記が出来上がる構成になっています。
「とびこむ」で、漢字「飛」「込」を用いた表記は、現代仮名遣い、旧仮名遣いを含め13種の表記がありました。新規表記を行うためにあえて用いたと思える表記もあります。あと「飛ひこむ」と「とひ込むが有れば全種類揃います。
(注)今回の表記は闇雲に検索した結果出てきた表記、あえて「とびこむ」の新規表記を検索した時に出てきた表記ですので一定の基準による結果ではありません。
古池や 蛙 (とびこむ 13種) 水の音 |
ふるいけや |
かわず |
とびこむ |
みずのおと |
古池や (62) |
蛙 (63) |
とびこむ (5) |
水の音 (42) |
婦る池や (2)
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かはつ (3) |
とひこむ (6) |
水のおと (14) |
不る池や (1)
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飛びこむ (8) |
水のをと (8) |
|
古いけや (1) |
飛ひこむ (0) |
水乃音 (1) |
|
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飛こむ (20) |
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とび込む (4) |
みづの音 (1) |
||
とひ込む (0) |
|||
とび込 (1) |
|||
とひ込 (2) |
|||
飛び込む (9) |
|||
飛ひ込む (1) | |||
飛び込 (1) |
|||
飛ひ込 (1) |
|||
飛込む (2) |
|||
飛込 (5) |
|||
蛙飛こ無 (1) |